オバマ大統領に続いて、最近MITを訪問してくれたのが、ビル・ゲイツ氏だ。
マイクロソフトを引退し、ビル&メリンダ・ゲイツ財団のNPO活動に専念して約2年。今回のMIT訪問はその立場では初めてとなる。
「Are the brightest minds working on the most important problems? (君たちの叡知を、世界の重要な問題に取り組むために使ってますか?) 」
「And to the degree that they're not, how could we increase that, which I think could make a huge difference? (もしそうでないなら、どうしたら改善できますか?大きなインパクトをもたらす可能性があるのに。) 」
知性の高いゲイツ氏の友人たちが、やっきになってスポーツや株式市場の話をしているとき、その頭脳をもっと大切な世の中の問題に向かわせるべきだとゲイツ氏自身が感じ、講演冒頭のこの質問になったそうだ。
確かに、医療、食糧、衛生、教育、エネルギーなど、世界には解決を求められている課題が山積している。
「科学のイノベーションにおいても、富める者のニーズのほうに関心が向かいすぎてないですか? たとえば毛生え薬とか、金融デリバティブ商品とか。」
学生の質問にも気さくに答える、自然体のゲイツ氏がそこにはいた。
MIT学生:「世界一のお金持ちになって、それってどんな気分ですか?」
ビル:「べつに、お金に糸目をつけなければ、マクドナルドよりおいしいハンバーガーが食べられるわけじゃないし、人間たぶん、ある程度以上のお金(数億円イメージ)を手にしたら、それ以上のお金ってそれほどの意味がないのかも。それより、今度は自分がどんなお返しができるか、だと思ってるんです。」
講演の前の学生座談会のとき、突撃で自分のビジネスプランをゲイツ氏にぶつけたMIT・スローンMBAスクールの院生がいた。
「私は母国サウジアラビアで、医者のいない過疎地を回って治療をしてあげるための医療トラック派遣事業をやりたいんです。どう思いますか?」
ビル:「素晴らしい。でも、できるだけ大きな視点をもつようにしてほしい。グローバルレベルで、乳幼児の生存率の問題があり、食糧や医療や水の問題があり、私たちにできること、すべきこと、がたくさんあるよね。一緒にがんばろう。」
2010年07月06日
◆ Giving it Back(何がお返しできるか)
2010年01月29日
◆ 「市場シェア」議論の悲劇 (Part2) - 市場がなくなるとき
市場シェアとかを見ているうちに、そんなことはどうでもいい、もっと大きな問題が起きるという、わかりやすい例をもう一つあげよう。
いま、白熱電球(いわゆる、ふつうの電球ですね)の市場で圧倒的優位を確保しているメーカーがあったとして、だからその会社は安泰だ、とは誰も思わないだろう。
世の中がこれほどのエコブームになり、あるいはそうでなくても、蛍光灯式電球の価格低下がここまで進み、節約できる電気代で購入コストが回収できてしまうのだから。
さらにここに、LED型電球という、また新しい技術と優位性を備えた製品が、日一日と脅威となってきているのだから。
こうなってくると、「わが社の白熱電球市場でのシェアはどうか?そしてそのシェアは今後どうなるか?」という調査を社長がマーケティング部に指示したとしたら、そういうピントはずれの設問をした時点で、この会社は終わるだろう。
設問自体が、というか、経営者として「抱いた疑問」自体が、考えるテーマとして正しくないのだ、としか言いようがない。
自社が謳歌している市場が、なくなろうとしているのだ。
そして、そこにいたトップメーカーたちは、転身をはかるか、死ぬか、に運命が分かれた。
レコード針のメーカーは、どうする?
ガソリンエンジンのメーカーは、どうする?
それを支える、ピストンリングの、カムシャフトの、燃料噴射装置の、点火プラグの、触媒の、燃料タンクの、マフラーの、メーカーは、どうする?
2010年01月05日
◆ いちばんのドル箱商品が やばくなったら?(Part2)
<Part I からの続き>
さて、前回からの続きで、「富士フイルム株式会社」をとりまくチャレンジと、とりうる戦略について。
選択肢として並べたものをおさらいすると、こんな感じだ。
(1) 仕方がないのでフイルム事業は縮小して、リストラをする。
(2) 縮小する市場からは他社は撤退していくから、最後まで生き残って、しばらくの間稼ぐ。
(3) 医療向け、産業向けフイルムなどの特殊用途に資源を投入する。
(4) 「デジカメ」にとっての「フイルム」ともいえる「受光素子」の事業へ参入。
(5) デジカメになっても、人はプリントした写真は欲しいはず。それに関連するビジネスに資源を投入。
(6) デジカメ本体そのものに参入。
読者は、どれを選択しただろうか?
さて、実際にこの会社が、どの戦略をとったかというと、驚くことに、上記(1)〜(7)、すべて、なのだ。
長年の写真フイルム関連の研究開発によって培ったノウハウにはすごいものがある。
これらの技術基盤をもってすれば、たとえば次世代TV用の「高機能材料」、ハイテク医療機器への応用、さらには、写真プリントの色褪せを防ぐ抗酸化技術はアンチエイジング技術となり、写真フィルムの原料であるゼラチンのノウハウはそのままコラーゲンを扱う技術となり、いわゆる機能性化粧品に参入したのは、意外どころかむしろ自然な選択といえる。
「富士写真フイルム」は、社名変更をして、「富士フイルム」となり、上記7つの戦略をすべて実行している。 >>富士フイルムの事業領域・・
2009年11月17日
◆ その製品は多くの人の問題を解決するのか?
国家を代表するような大企業なら、放漫経営で傾いちゃっても、国が助けてくれる(ときには国民の税金を投じて!)。 ベンチャーはそんな世界とは無縁だ。 うまくいかないときは「退場」しかない。
応援しているベンチャーのなかからの、最近のグッドニュースとしては、そこで開発した製品が、
Microsoft Innovation Award 2009 最優秀賞を獲得
というニュースがあった。

パソコンをなくしたり盗まれたりして、手元に戻ってこなかった場合、その中のデータを自動的に見えなくしたり、消去したりできる機能や、遠隔命令で削除もできる(ネットにつながってもつながらなくても)、「トラストデリート」という、必要だったのに なかった製品。
新事業の妥当性を判断するときのチェックリストの一つである「その製品は多くの人の困っている問題を解決するのか?」に対して、大きな「YES」評価がつけられるソルーションであるといえる。