2010年06月24日

◆ BP重油流出と オバマ大統領の会見

<6月23日の記事からの続き>
 

何十年も前からわかっていたはずなのに、私たちは明確な行動を起こさなかった。そういった行動はいつも阻害されてきた--石油業界のロビイストたちに、また、我々自身の政治的勇気と信念の不足に。

こう言っている間にも、中国とかはクリーンエナジーへの投資に余念がない。

こう言っている間にも、我々は外国から石油を買い、毎日10億ドル近い代金を彼らに送金している。

こう言っている間にも、私たちの湾を見ると、毎日1千万リットルのどす黒い重油が、沿岸の生活と産業を脅かしている。


専属スピーチライターによる、大統領演説特有の演出(クサさ)はあるが、そういった文学的手法が、英文テキストとしての資質を持つことにもつながっている。

We cannot consign our children to this future. The tragedy unfolding on our coast is the most painful and powerful reminder yet that the time to embrace a clean energy future is now. (こんな問題を子孫に押しつけて良いはずがありません。今回の流出問題は、我々が今こそクリーンエナジーに立った未来に向かって踏み出すべきと教えています。)

目前の問題をとらえながら、現政権の戦略であるエネルギー施策の正当性を改めて強調することに成功した。
posted by Nobby at 10:21 | Comment(0) | TrackBack(0) | 危機管理

2010年02月27日

◆ 企業の危機管理 (Part2) - 企業理念にたち帰る

<Part I からの続き>

このLentz氏のビデオを見て、思い出した昔の事件がある。

1982年に、アメリカでダントツに普及していたジョンソン&ジョンソンの頭痛薬「タイレノール」に、何者かが青酸カリを入れた事件だ。

その結果、7人の消費者が、死んだ。

そして、ジョンソン&ジョンソンの社員も含め、全米の誰もが(マーケティングの専門家も含めて)、これで同社のドル箱商品「Tylenol」というブランドの歴史が終わった、と思った。

「もう、タイレノールは、終わり。 打つ手はないと思います。もう店頭でこの商品を目にすることは二度とないでしょう。この問題を解決できる方法がわかる人がいたら、即刻わが社で採用したいです。」 大手広告代理店幹部で当時のカリスママーケター、ジェリー・デラ・フェミナ氏は、ニューヨークタイムズ紙の取材にこう答えた。


 

tylenol.png
 
 

当時私もカリフォルニアで経営やマーケティングの授業をとっていた最中。連日この話題でクラスの議論になった。

ブランドが、事故や事件により大きなダメージを受けたとき、どうするべきか?

ブランドは利益の源泉、と考える風潮の強かった当時の大学では、次のような、冷めた意見も出た。

「そのブランドのイメージ修復コストが、新規ブランド立ち上げコストを上回るなら、ブランドを捨てて再出発するほうが得策。」

しかしそれは、ブランド政策の失敗としか言えないだろう。

消費者の心に、長期にわたって「マインドシェア」を形成してきたブランドというものは、そんな安易なものではない。

ジョンソン&ジョンソンCEOのジェームズ・バーク氏(当時)もそう考えた。

 
いや、正確には、彼はそう考えたのではない。
 
彼は、タイレノールを飲んで即死したMary Reinerさんの葬式をテレビで見て、泣いたのだ。
 
親類や友人のほか、マリーさんが数日前に出産したばかりの赤ちゃんを含め、4人の子供達がお葬式に参列していた。
 
そして彼は、自社ジョンソン&ジョンソンの信条(Corporate Credo)にたち返った。
 
そこには、こう書いてある。>>こちら


翌朝、バーク社長の迷いは消えていた。

 
彼は自らテレビに緊急出演、全てのタイレノールの店頭在庫(3千万本以上)を即時回収、廃棄すると発表する。

30年近く前の米国では異例の、利害を超えた対応で、ライバルメーカーを含め、業界中を驚かせた。

何人もの死者を出し、全国・全品回収を行った翌年、今でこそ当たり前になった開封プルーフキャップを実装、満を持しての再発売に踏み切る。

その結果、タイレノールの売れ行きはなんと事故前よりも伸びて、さらに30年近く経過した今なお不動の人気商品として3千万人に愛用されている。

このことは、まさに「雨降って地固まる」、「災い転じて福となす」、大企業トップの危機管理物語として、のちの経営学の教科書に載るまでの伝説となった。

(この青酸カリ事件を含め、企業の危機管理と消費者の信頼回復のテーマについては、まだまだ内外のエピソードがたくさんあり、紹介したいのですが、このブログの読者がそのへんに興味をお持ちかがわかりません。リクエストを多く頂いたらまた紹介することにします。)

トヨタUSAのLentz社長、絶対このことを知っていて、今回のビデオ作ったと思います。

posted by Nobby at 07:15 | Comment(0) | TrackBack(0) | 危機管理

2010年02月25日

◆ 企業の危機管理 (Part1) - トヨタのリコール問題

トヨタのリコール問題は、豊田章男社長が米国公聴会に召喚されるなど、外交問題的な様相もまじり、質問に立つ議員、なかでも米自動車メーカーの支援を受ける議員の選挙前パフォーマンスの思惑もまじり、一種異様な様相を帯びてきた。

そういったなか、アメリカ政府の見解はともかく、アメリカ国民の平均的なセンチメントとしては、トヨタはよくやっている、健闘している、という意見が大勢のようである。

自分もそこは同意だ。

米国トヨタ(Toyota Motor Sales USA - TMSという)の緊急CMが、ユーチューブに上がった。

大変良い印象のCMである。弁解はせず、真摯な反省のメッセージが込められている。
 
新しい窓でこの動画をみる


TMS社長Jim Lentz氏のビデオメッセージも、素晴らしい出来だ。こういうのはアメリカ人に好印象となろう。

 
新しい窓でこの動画をみる

 
 
豊田章男社長の対応は、アメリカの議会とメディアにかなりいじめられた。通訳を介して、ということでも批判にさらされやすいなか、非常に健闘されたと思う。
 
(c) 2010 Sankei News >>新しい窓で開く
 
アメリカの感覚では、このような問題のときにトップ自身が受けて立つことは必須で、どんな大企業でも、トップ以外にこの任務を代行させたら、それだけで致命的な批判を浴びる。この点の厳しさは日本とは比べものにならない。

この点は豊田章男氏は先刻承知で、公聴会の冒頭陳述のなかで豊田社長は繰り返し「私のリーダーシップのもと」という表現を使用したほか、「私自身も走行試験をする」、「豊田という私の名前にかけて」、と強調する。むろん側近の幹部が作成したスピーチではあるが、注意深く、よく作られている。この手のトップ対応に関するスピーチとしては、近年まれにみる完璧な名文だと思う。

ところでこのスピーチでは、「日本」という言葉を一切使わなかった点も注目に値する。「アメリカが、日本の企業をたたく」という構図になることは絶対に避けたかったと思われる。

一方で「20万人の米国の従業員」「すべての米国の販売店やパートナー」「米国のサプライヤー」「アメリカのトヨタ車オーナー」というふうに、「アメリカ」や「アメリカの雇用」は強調する。さすがだ。

<Part II に続く>

posted by Nobby at 17:13 | Comment(0) | TrackBack(0) | 危機管理