<Part I からの続き>
このLentz氏のビデオを見て、思い出した昔の事件がある。
1982年に、アメリカでダントツに普及していたジョンソン&ジョンソンの頭痛薬「タイレノール」に、何者かが青酸カリを入れた事件だ。
その結果、7人の消費者が、死んだ。
そして、ジョンソン&ジョンソンの社員も含め、全米の誰もが(マーケティングの専門家も含めて)、これで同社のドル箱商品「Tylenol」というブランドの歴史が終わった、と思った。
「もう、タイレノールは、終わり。 打つ手はないと思います。もう店頭でこの商品を目にすることは二度とないでしょう。この問題を解決できる方法がわかる人がいたら、即刻わが社で採用したいです。」 大手広告代理店幹部で当時のカリスママーケター、ジェリー・デラ・フェミナ氏は、ニューヨークタイムズ紙の取材にこう答えた。
当時私もカリフォルニアで経営やマーケティングの授業をとっていた最中。連日この話題でクラスの議論になった。
ブランドが、事故や事件により大きなダメージを受けたとき、どうするべきか?
ブランドは利益の源泉、と考える風潮の強かった当時の大学では、次のような、冷めた意見も出た。
「そのブランドのイメージ修復コストが、新規ブランド立ち上げコストを上回るなら、ブランドを捨てて再出発するほうが得策。」
しかしそれは、ブランド政策の失敗としか言えないだろう。
消費者の心に、長期にわたって「マインドシェア」を形成してきたブランドというものは、そんな安易なものではない。
ジョンソン&ジョンソンCEOのジェームズ・バーク氏(当時)もそう考えた。
いや、正確には、彼はそう考えたのではない。
彼は、タイレノールを飲んで即死したMary Reinerさんの葬式をテレビで見て、泣いたのだ。
親類や友人のほか、マリーさんが数日前に出産したばかりの赤ちゃんを含め、4人の子供達がお葬式に参列していた。
そして彼は、自社ジョンソン&ジョンソンの信条(Corporate Credo)にたち返った。
そこには、こう書いてある。
>>こちら
翌朝、バーク社長の迷いは消えていた。
彼は自らテレビに緊急出演、全てのタイレノールの店頭在庫(3千万本以上)を即時回収、廃棄すると発表する。
30年近く前の米国では異例の、利害を超えた対応で、ライバルメーカーを含め、業界中を驚かせた。
何人もの死者を出し、全国・全品回収を行った翌年、今でこそ当たり前になった開封プルーフキャップを実装、満を持しての再発売に踏み切る。
その結果、タイレノールの売れ行きはなんと事故前よりも伸びて、さらに30年近く経過した今なお不動の人気商品として3千万人に愛用されている。
このことは、まさに「雨降って地固まる」、「災い転じて福となす」、大企業トップの危機管理物語として、のちの経営学の教科書に載るまでの伝説となった。
(この青酸カリ事件を含め、企業の危機管理と消費者の信頼回復のテーマについては、まだまだ内外のエピソードがたくさんあり、紹介したいのですが、このブログの読者がそのへんに興味をお持ちかがわかりません。リクエストを多く頂いたらまた紹介することにします。)
トヨタUSAのLentz社長、絶対このことを知っていて、今回のビデオ作ったと思います。
posted by Nobby at 07:15
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危機管理