このボーイング787プロジェクトに、日本企業の協力は不可欠なものだった。
製造段階だけでも、全体の35%が日本製となった。

日本企業の協力は、素材や部品の供給だけではない。ボーイング787の最大の導入パートナーとなっているANA。同社は、全世界に先駆けて787を導入する航空会社であり、購入数No.1であるだけでなく、次世代エコ中型機材として767の後継機開発へボーイング社を根強く説得してきたのも、ANAだった。

^ エアライン別ボーイング787契約機数 上位10社
ANAはボ社を787開発に踏み切らせたその後、「ワーキング・トゥギャザー」プロジェクトにおいて中心的な役割を果たし、さらに試験導入への協力を含めた「ローンチカスタマー」として、現在もなお787オペレーションに関する各種検証に協力している。
20年に一度と言われる新型航空機の開発。
これをビジネスのエコシステムの観点からみた場合、その関連各社の状況から、何が見てとれるか・・?
ひとつ言えることは、長期的視点でみた場合に、エコシステムを構成する各業界において、収益性が大きくかけ離れる状態は長続きしない、という点だ。

(c) Boeing Co.
^ ANA代表取締役社長、伊東信一郎氏 と ボーイング民間航空機部門CEO、ジム・オルボー氏
つまり、航空・旅客ビジネスのエコシステムの場合だと、上流から下流、最終顧客に遠い方から順に、石油会社、部品・材料メーカー、航空機メーカー、航空会社、旅行代理店・・などと業界を並べたとき、このうちどこかの業界が長い期間、泣きを見て、その上流下流の別の業界が極端に潤い続ける、というのは健全なエコシステムではないし、長続きしない。
別の説明を試みると、上流から下流までの全業界(これをバーティカル・セクターと呼ぶことにしよう)が、エコシステムの構成員であり、それらのセクターはともに繁栄するのが、長期で目ざすべき姿だ。
さらにもっとマクロな視点からいうと、素材メーカーや石油会社の社員や家族だって、出張もあれば海外旅行もある。その意味では、最終顧客(この場合は旅客)も含めて、航空ビジネス全体が、世界経済の発展とは運命共同体だ、ということになる。
とはいえ、上記は、ある意味理想論だ。
それでは実際のところ航空・旅客ビジネスにおいて、各業界ごとの収益性はどうなっているかを見てみよう。

^ 航空関連業界主要各社の売上高営業利益率の推移(2008-2010)
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(c) Nobby Yoshida
グラフから、いくつかのパターンが見てとれる。まず気付くのは、リーマンショックの影響は、2009年の航空関連業界全体に影を落とし、なかでも製造業の血肉ともいえる素材業界へのインパクトは大きかったことが、東レの落ち込みに表れている。利益率の変動が極端だ。
もうひとつ目立つのは、全くといっていいほど景気に左右されずに高収益を保っているGE社のパフォーマンスだ。航空機エンジン事業における雌雄のライバルであるロールスロイス社も景気の影響は受けていないが、同じ業界にもかかわらず収益力の差が出ており、2社の差は5〜10%もある。
また、この世界のエコシステムをみて、長期で安定的に事業収益をあげられるのは、航空関連ビジネスのなかでは、航空機エンジン事業ではないか、と思える。

一方で、ボーイングなどの航空機メーカーと、ANAやシンガポール航空などの航空会社は、景気や経済の影響を同じように受ける傾向がある。(エアバス社の06・07年の赤字転落は業界共通のパターンではないので、原因が別にあるように思える。)
業界全体として、リーマンショックからの業績回復は2010年以降顕著であり、11年以降のさらなる改善を期待しても良さそうだ。全体として、世界景気の先行き不安、欧米の信用不安などを打ち消す形で、アジア・アフリカ諸国の成長が見込まれることによって、結果ゆるやかな成長、といったところか。

(c) ANA Co. Ltd.