2011年09月21日

◆ボーイング787とエコシステム経営(6)


このボーイング787プロジェクトに、日本企業の協力は不可欠なものだった。

製造段階だけでも、全体の35%が日本製となった。


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日本企業の協力は、素材や部品の供給だけではない。ボーイング787の最大の導入パートナーとなっているANA。同社は、全世界に先駆けて787を導入する航空会社であり、購入数No.1であるだけでなく、次世代エコ中型機材として767の後継機開発へボーイング社を根強く説得してきたのも、ANAだった。


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エアライン別ボーイング787契約機数 上位10社



ANAはボ社を787開発に踏み切らせたその後、「ワーキング・トゥギャザー」プロジェクトにおいて中心的な役割を果たし、さらに試験導入への協力を含めた「ローンチカスタマー」として、現在もなお787オペレーションに関する各種検証に協力している。

20年に一度と言われる新型航空機の開発。

これをビジネスのエコシステムの観点からみた場合、その関連各社の状況から、何が見てとれるか・・?

ひとつ言えることは、長期的視点でみた場合に、エコシステムを構成する各業界において、収益性が大きくかけ離れる状態は長続きしない、という点だ。


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(c) Boeing Co.
ANA代表取締役社長、伊東信一郎氏 と ボーイング民間航空機部門CEO、ジム・オルボー氏


つまり、航空・旅客ビジネスのエコシステムの場合だと、上流から下流、最終顧客に遠い方から順に、石油会社、部品・材料メーカー、航空機メーカー、航空会社、旅行代理店・・などと業界を並べたとき、このうちどこかの業界が長い期間、泣きを見て、その上流下流の別の業界が極端に潤い続ける、というのは健全なエコシステムではないし、長続きしない。

別の説明を試みると、上流から下流までの全業界(これをバーティカル・セクターと呼ぶことにしよう)が、エコシステムの構成員であり、それらのセクターはともに繁栄するのが、長期で目ざすべき姿だ。

さらにもっとマクロな視点からいうと、素材メーカーや石油会社の社員や家族だって、出張もあれば海外旅行もある。その意味では、最終顧客(この場合は旅客)も含めて、航空ビジネス全体が、世界経済の発展とは運命共同体だ、ということになる。

とはいえ、上記は、ある意味理想論だ。


それでは実際のところ航空・旅客ビジネスにおいて、各業界ごとの収益性はどうなっているかを見てみよう。



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航空関連業界主要各社の売上高営業利益率の推移(2008-2010)
<クリックして拡大>

(c) Nobby Yoshida


グラフから、いくつかのパターンが見てとれる。まず気付くのは、リーマンショックの影響は、2009年の航空関連業界全体に影を落とし、なかでも製造業の血肉ともいえる素材業界へのインパクトは大きかったことが、東レの落ち込みに表れている。利益率の変動が極端だ。

もうひとつ目立つのは、全くといっていいほど景気に左右されずに高収益を保っているGE社のパフォーマンスだ。航空機エンジン事業における雌雄のライバルであるロールスロイス社も景気の影響は受けていないが、同じ業界にもかかわらず収益力の差が出ており、2社の差は5〜10%もある。

また、この世界のエコシステムをみて、長期で安定的に事業収益をあげられるのは、航空関連ビジネスのなかでは、航空機エンジン事業ではないか、と思える。

RR engine on 787.jpg


一方で、ボーイングなどの航空機メーカーと、ANAやシンガポール航空などの航空会社は、景気や経済の影響を同じように受ける傾向がある。(エアバス社の06・07年の赤字転落は業界共通のパターンではないので、原因が別にあるように思える。)

業界全体として、リーマンショックからの業績回復は2010年以降顕著であり、11年以降のさらなる改善を期待しても良さそうだ。全体として、世界景気の先行き不安、欧米の信用不安などを打ち消す形で、アジア・アフリカ諸国の成長が見込まれることによって、結果ゆるやかな成長、といったところか。


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(c) ANA Co. Ltd.

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2011年08月25日

◆ボーイング787とエコシステム経営(5)

<Part 4 からの続き>


これだけのレベルで新素材の採用が進んだのは、ボーイング社の設計やシミュレーション能力はむろんのことだが、それに協力する世界の製造メーカーの協力があってこそだった。

なかでもとくにめざましかったのは、日本の先端素材メーカーの活躍だった。これなくして787の成功はありえなかったといって良い。


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(ボーイング787  メーカー関連図)  *クリックして拡大


ここに書かれているメーカー関連図は、数百万点といわれる部品総数のごく一部だ。実際に787向けに部品を供給するメーカーの数は、382社にのぼる。

これだけの数の部品供給会社があると、契約も、設計も、品質管理も、納期管理も、全て大変な作業だ。これらがみな、ボーイング社へのチャレンジとなって肩にかかってくる。787の納期が遅れた原因の一部は、そのサプライチェーンの上流にもあった。 多くは共通部品を複数サプライヤーから仕入れるマルチプルソーシングを行っているが、そうもいかない部品も多くある。

もちろん、マルチサプライヤー、グローバル調達は、ボーイング社にとっても、そのメリットがあ手間やリスクを上回った。

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なかでも、新素材に関する日本メーカーのレベルには一日の長がある。とくに人命を預かる航空機の機体への採用は、国産メーカーの真骨頂を発揮した快挙といえる。

実はボーイングと日本メーカーとの協業は、787に始まったことではなく、実に40年近く前にさかのぼる。1970年代始めに、ボーイング社とのCFRP(炭素繊維強化樹脂。東レのブランド名「トレカ」)の採用検討は始まっており、70年代のうちに実装も始まった。ただし当時は主要な構造部分への採用はなく、機内装備や内装の一部から採用が始まった。80年代に入って、機体の強度や安全性に影響する重要な部分にも採用が進み、90年代になるとボーイング777を中心に主翼や尾翼など、飛行機全体の構造設計に関与する形での採用が進んだ。

このような歴史と経験を経て、ようやく今回の787で、「全体の半分以上が新素材」と言えるレベルでの採用になった。

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全体の半分を新素材で、というレベルの採用度は、航空機製造史上最高で、これを従来素材との置き換えによる重量削減量として計算すると、約25トン前後の軽量化、ということになると思う。しかもそれによって強度は全く犠牲になっておらず、むしろ強度アップが実現し、より安全な飛行機が完成した。

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ちなみに、東レが自社の新素材事業に関して、航空機業界に対する意気込みは生半可ではない。

東レは2004年に、B787の主翼と尾翼を対象として、炭素繊維ユニディレクショナル・プリプレグ(単一方向に配置した炭素繊維の間を樹脂で埋めた中間材料)の長期供給基本契約をボーイング社と締結した。その後さらに、胴体向けに炭素繊維クロス(織物)プリプレグの追加受注に成功している。

2010年の東レの航空機向け炭素繊維の年間生産量は約2万4000トン(ちなみに2006年には1万トン強だった)にまで伸びている。 ボーイング社との契約期間である2021年までの16年間における、同社への炭素繊維材料の供給額は、約60数億ドルを見込む。16年間で1500機前後のB787に炭素繊維材料を供給する計画だ。

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東レがここまで努力して投資を続けてきた航空機向け複合素材事業。ボーイング社から60億円を得るだけで満足すべきでは無論ない。 たとえば、当然ながらこの動きを誰よりも意識しているのが、ボーイングの最大のライバル、エアバス社だ。東レはエアバス社の旅客機向けにも新素材を供給していく。 さらにその先には、ボンバルディア(カナダ)、エンブラエル(ブラジル)などの中小型旅客機メーカーへの営業攻勢も視野に入っていると想像する。 そして航空機向けからのヨコ展開として、大きな市場性が見込まれる自動車向けのニーズが射程距離に入っている。


炭素繊維やそのプリプレグに関しては、そのなかでは相対的にハードルの低い用途となる、普及帯ゴルフクラブ、テニスラケット、釣り竿、自転車などが徐々に韓国系炭素繊維メーカーからの価格競争にさらされているなか、本体メーカーの要求基準が高い、航空機向け、自動車向けは、当面は日本メーカーが優勢、と見てとれる。


この、先端技術による新しいモノ作りでいつもワクワクさせてくれる飽きない会社、「東レ」 については、機会を改めて執筆したい。

<Part 6 に続く>

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◆ボーイング787とエコシステム経営(4)

<Part 3 からの続き>


6.安全性

ボーイング787の注目ポイントとして見逃せないのが、その安全設計だ。

航空機の安全性は、設計、シミュレーション、実地試験、投入後のフィードバック、などによって左右される。

それを実施するのは、主に開発メーカーであるボーイング社の仕事だ。

その膨大な試験プロセスの、ごく一部を紹介する。

たとえば、エンジンの中にある回転翼(タービンブレード)が、理由はともかく破損したらどうなるか。 たとえそのような重大な事態でも、エンジン故障、あるいは停止、あるいは炎上、などなどの自体を招いてはならない。


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たとえば、飛行中のエンジンに鳥が飛び込んだらどうなるか。

これによって不慮の事故が起きたとき、「申し訳ない、想定外でした。」という言い逃れはできない。

なので、その事態を想定した実験を行い、鳥が飛び込んでも故障しないエンジン設計とする。

次に、エンジンに、集中豪雨レベルを上回る大量の水、ひょう、砂・・・などを投入する実験。 これらもすべて、通常の運航において想定しうる量以上のレベルでテストする。



(動画の英語音声注)
・"Four and a half tons of water per minute" (毎分4.5トンの水を投入)
・"3/4tons of hail in 30 seconds" (30秒間に3/4トンの氷[ひょう]を投入)
・"Bird carcasses" (鳥の死骸)


航空機の安全の確保は、大きく分けて以下の4つのエリアがテーマとなる。

1.機体の設計段階
2.製造段階の品質確保
3.航空会社による、運航(オペレーション)上の安全確保
4.航空会社による、整備(メンテナンス)上の安全確保


1.の、設計段階での安全確保については、上記に説明した。

ここで、ボーイング787の部品・部材についてのストーリーを紹介したい。


約10年ぶりの新型旅客機となる787では、新素材の採用を徹底的に推し進めた結果、主翼も尾翼も、胴体も、新素材になった。

787の機体でどの程度 新素材が採用されたかを見てみよう。

下の図で、グレー、水色、紺色の部分は全てそういった複合材料が使われている。


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絵で見ると、飛行機の外側を構成する部分、つまり構造部材に積極的に採用されていることがわかる。


では、素材別の構成比率をみてみよう。

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グラフにしてみると、前出の機体の絵で見る採用状況ほどには新素材が圧倒的な印象を与えないのは、この円グラフが「重量比率」であることによる。 つまり、合金の半分の重さの新素材が、「全体の半分以上」で使われたということは、それ以上、すなわち半分をはるかに超えるレベルで採用が進んだことにほかならない。 開発に関わった技術者らが、仲間うちで787のことを「黒い飛行機」と形容することがあるのはそういうことだ。


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これだけのレベルで新素材の採用が進んだのは、ボーイング社の設計やシミュレーション能力はむろんのことだが、それに協力する世界の製造メーカーの協力があってこそだった。


<Part 5に続く>

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2011年08月06日

◆ボーイング787とエコシステム経営(3)


<Part2 からの続き>



5.操縦性


さすがに最新鋭の航空機だけあって、可能な限りの電子化が追求され、そのメリットを感じるのは、乗客だけでなく、キャビンアテンダントも、パイロットも、それぞれ違った意味で感じることになる。たとえば操縦のしやすさ、もその一つだ。


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例として、パイロットの操作を、機体のいろいろな部分に正確に伝える部分では、従来、油圧や空気圧で制御されていたものの多くが、電子制御となった。この技術を「フライ・バイ・ワイヤー」というが、787では、この採用の度合いが従来機に比べて格段と進んだ。

ボーイング社としても13年ぶりの新型旅客機となるこの787。その13年の間にも、ITやエレクトロニクスは見違えるほどの進化をとげていたわけだ。その意味で787は、最新のそういった進化をフルに享受・反映した初めての飛行機といえる。


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(c) Boeing Co.


同時に、この飛行機を購入する顧客であり、実際にそれを運航するANAとしても、航空会社としてのビジネス要求、操縦をするパイロットの要求、整備士の要求、地域社会の要求、そしてもちろん、乗客の要求を把握し、ボーイング社に伝えて交渉する、その作業は、かつてないチャレンジとなった。

いかに電子化が進んでも、飛行機の安全運航を完全にするのはパイロット。世界的にも優秀といわれるANAのパイロットが、787の操縦性について意見を述べる機会もあった。彼らがシアトル(ボーイング本社)に行ってアメリカ式の操縦訓練を教わるが、そこで日米の考え方の違いを目の当たりにすることになる。 どちらが良い、悪いではない。

お客様を、安全に、快適に、オンタイムで目的地にお連れしたい・・。 この一見シンプルな航空会社の願いを追求すべく、航空業界の上流から下流までのすべての企業が、役割分担をしている。


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(c) ANA Co. Ltd.



<Part 4に続く>

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2011年08月02日

◆ボーイング787とエコシステム経営(2)

<Part1 からの続き>




4.快適性(乗り心地)

飛行機マニアでなくても、787の機内に一歩踏み入れた瞬間に誰でもその違いに気付くはずだ。ボーイング社は今回、乗客の機内エクスペリエンスに非常に力を入れた。その説明がこちら。
(新しいウインドウで、右側の「View Video」をクリック)

PassengerExperience.jpg
(c) Boeing Co.


搭乗ゲートから機内に入ったときの第一印象にインパクトを持たせるべく、入り口付近のギャレーエリアを広く高く設計。また天井の照明は、無段階調光・無段階調色式LEDで、カラーセラピーの理論をも踏まえた間接照明を行う。



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(c) Boeing Co.



たとえば、夜間フライトでの休息時間の照明は月夜のような感じに調整し、到着前の機内サービスの時間が近づくと、本当の夜明けのように徐々に明るさを増しながら、上は紺色、水平線付近は朝焼け色にしていく。


自然な目覚めを促す客室照明の調整
(c) Boeing Co.

そればかりでなく、キャビンの温度、湿度、気圧、さらには 「乗り心地」 といった点にまで改善の目を向けたところがすごい。ボーイング社の研究で、乗客のフライト体験を改善するために取り組むべき課題として、このような項目があがったことに端を発する。

国際線に乗って、寒すぎると感じたり、室内が乾燥しすぎと感じたりした読者は多いのではないだろうか? そしてその都度、毛布をもらったり水をもらったり、濡れたハンカチを喉にあてたりして、「我慢」を強いられる。


実は、機内が乾燥しているのには訳があったのだそうだ。

機内の室温を高くし、湿度を上げると、冷たい外気と接触する飛行機のボディ内部に露が付着し、機体の寿命に悪影響を与えるのだそうだ。

であるとすると、飛行機の寿命を守るために、乗客の快適が犠牲にされていることになる。

この点にも焦点をあて、解決してみせたのが、ボーイング787だ。

機体が炭素繊維複合素材であれば、露で錆びたりしない・・。金属疲労もない。
さらに、従来のように小さなパネルをたくさん組み合わせる方式ではなく、大きな筒状の胴体を一体成形するため、接合部が圧倒的に少ない。

それらはすなわち、検査やメンテナンスにかかる時間とコストを大幅に低減する。
複合素材で飛行機を作るメリットが、ここにもあった。


20.jpg
(c) Boeing Co.


キャビン(客室)の気圧も、改善されている。離着陸時に耳が痛くなる、あの気圧変化だ。

従来の飛行機での、通常の高度で飛行中の機内の気圧は、地上でいうと標高2700メートル程度に相当するそうだ。ちなみに富士山五合目の標高が2400m。それにより、高山病とまでは言わないが、低気圧に伴う頭痛やその他の不快感を覚える人も少なくない。

それが787では、標高1800m程度にまで与圧され、ノーマライズされた。これは、上信越高原、志賀高原レベルということになり、高度1万メートル以上で飛行する旅客機のキャビン内気圧としては、かつてない快適さだといえる。

さらに、好きな人はいないだろう、飛行中のあの「揺れ」に対しても、787では改善のチャレンジがなされた。

ドップラーレーダーによって、進路に観測される乱気流を回避する、などの技術は以前から実用化されているが、今回787に初めて搭載された技術は、飛行中の細かい揺れを直前に計算し、それを打ち消すようにいくつかの補助翼やフラップを細かく動かす、というものだ。


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<Part3 に続く>
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2011年07月31日

◆ボーイング787とエコシステム経営(1)

〜ボーダレス・マニュファクチャリングの時代〜

         日本の心と技術を乗せて


「ドリームライナー」 のニックネームで呼ばれる次世代航空機 「ボーイング787」 が 「離陸」 した。

ボーイング社からの商業納入1号機は、ANAブランド。

米西海岸シアトル近郊にある工場から、羽田空港にやって来た。


787-8-ANA_K64837-01tp.jpg













飛行機の紹介ではなく、経営のスタイルやアプローチを紹介するこの 「エコシステム経営」 ブログとして、着目したい点がいくつかあるので、数回にわたってとりあげてみたい。

この開発物語が特筆に値する主な理由は以下。

・10年にもわたる多数の先端技術メーカーによる国際協力の結集。

・航空機メーカーと、その直接の顧客である航空会社との、単なる取引関係を越えた「アライアンスパートナー」としての協力の結実であること。

・時代が求める航空旅行のあり方に正面から応えた仕様と性能であること。

・テクノロジーとイノベーションが、世の中にどう貢献しうるかを具現した好例といえること。


実際に太平洋を渡ってきた787の機体を目の当たりにしても、これほどの努力とチャレンジがあったことを思い起こすと、まったく奇跡としか思えない、不思議な感慨を抱く。


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この最新鋭機のデザインゴールとして、次のような特徴があげられる。

1.低燃費
2.低環境負荷(低CO2、低排ガス、低騒音、低資源負荷)
3.メンテナンス性
4.快適性(乗り心地)
5.操縦性
6.安全性


まずはこの6つの特徴について。


1.低燃費

従来機(767)に比べて燃費性能が20%向上。乗客一人あたりの燃費で考えると25%向上。同時にCO2排出量も同率で低減。 この快挙はおもに3つの大きなファクターの貢献が大きい。

1:エンジン性能の向上

2:機体の軽量化

3:機体設計の改善

によるもの。機体については海外協力の項で詳説したい。




2.低環境負荷(低CO2、低排ガス、低騒音、低資源負荷)

低燃費イコール低環境負荷に直結する、という理由と、エンジン設計の改善により、離着陸時の空港周辺に与える騒音が低減された点は特筆に値する。この成果はエンジンメーカー(ロールスロイスとGE)の努力によるところが大きい。

人口の多い地域に空港が隣接していることの多い日本では、他にも増して重視したいファクターだ。ANAに納入予定の787に搭載されるロールスロイスのTrent1000というエンジンは、ICAO(国際民間航空機関)の最も厳しい基準(Chapter4)の規定するノイズレベルの5分の1を達成している。下の写真で、エンジンハウジング後部が花模様にギザギザになっている(シェブロン・ノズルと呼ばれる)のも、風洞実験、飛行実証実験によって導かれた、最新の騒音対策の一環だ。


IMG_8095ts.jpg



この騒音対策の実証実験 QTD2 (Quiet Technology Demo Test) には、ボーイングやエンジンメーカーはもちろんのこと、ANAもNASAも協力・参画し、大きな成果をあげた。 結果、空港周辺の騒音低減につながったのみならず、機内、とくに後方シートの乗客が感じる騒音と振動も、大幅に低減することができた。



3.メンテナンス性

気が遠くなるほど複雑な航空機設計のなかで、できうる限り組み立てを簡素化した努力が787の全体に見てとれる。これは例えば、使用するネジ(リベット含む)の数でみただけでも明白だ。747ではその数は約100万個、787では約10万個。これはメンテナンス性にも直結する簡素化だ。787は、同サイズの従来機に比べて約30%ほどメンテナンスコストが下がるという。


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2010年11月28日

◆ マイクロソフト・イノベーションデイで講演

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12月2日に開催される「Microsoft Innovation Day 2010」にて、エコシステム経営について講演いたします。

この機会にぜひご参加ください。


主催:マイクロソフト株式会社

日時:2010年12月2日(木) 13:00-19:40(講演は16:40〜)

会場: ベルサール九段(東京都千代田区)

参加費:無料(事前登録要)

◆ 「エコシステム経営」による、ベンチャー成功のチェックポイント(吉田 宣也 日本MITエンタープライズフォーラム 副理事長)

企業の成功は、その存在価値を長期にわたって世の中に提供する役割を果たせることにあります。それは「エコシステム経営」の考え方で実現できることを、IT 業界を中心に、大成功例/大失敗例をご紹介しながら、これからの経営者にヒントをご提供します。

イベント詳細・事前登録はこちら

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(昨年の写真から)

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2010年11月16日

◆社内公用語は英語にすべきか?(4)


< Part 3 から続く >


次に、いまあげた4つのファクターよりももっと重要なファクターをあげる。

それは、「顧客が使う言語は何なのか?」という問題だ。

社内公用語の議論と検討において、この問いを忘れてはいけない。

英語に統一するのがベスト、と単純に結論付けるなら、全ての米系企業は世界中で・・・IBM本社内も、日本IBM社内も、日本HPでも、プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパンの社内でも、当然英語で統一すべきだ、となる。

いま上にあげた外資企業の日本法人たちは、富士通や花王などの国内ライバルに顔負けの実績を日本であげているが、社内では英語も日本語も自在に飛び交っている。部署によっては圧倒的に日本語だし、英語を聞かない日だってある。

それは、英語以外の言語がメインであるその国をターゲット市場と定め、そこに市場機会を求めるのであれば、必要なことなのである。

つまり、顧客すなわち市場で使われている言語に精通し、彼らに最も効果的に「刺さる」その言語でもって収益を稼ぎ出すことは、あれこれ悩むまでもなく当然のことであり、悩んではいけないことである。

ついでに言えば、顧客だけでなく、そのコミュニティ(例えば、現地のことばでCSRやらないでどうする?)、取引先、外注先、協力会社、競合他社(潜在的な採用ソースでもあるわけだし)、メディア、などが主に使う言語を使いこなさないでどうする? ということだ。

ここまで書き記すと、結局のところこの問題も、エコシステム経営の基本にたどり着くことがわかる。全てのステークホルダーをつなぐ媒体として機能する、「信頼」にしても、「コミュニケーション」にしても、「契約」にしても、言葉を介して健全に成り立つからだ。

従って、多くの場合、最適解は、社内共通語はあった方が良いが、「現地語」も引き続き重要であり、日本で活動をして雇用をしている企業の場合は、現地語である日本語が重要であるので奨励し、かつそれに加えて世界的に重要である英語をも、公用語として奨励する、ということになるのではないか。


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さて、楽天の取締役会の場合、ほとんどが日本人であるだけに、英語に統一する必要性が見えにくく、メリットよりもデメリットのほうが大きいように見えるため、これに反対する社員
(表明するかどうかはともかく)や、うまくいかないと予想する内外の人々が多い。

社内公用語は、日本語がいいのか、英語がいいのか?

もちろん一概には言えないだろう。

では、楽天にとってはどちらが良い結果をもたらすか?

筆者の予想は、導入1年間は混乱やデメリットのほうが上回り、2年目からは、メリットが上回るのではないかとみるものである。

< 記事終わり >

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◆社内公用語は英語にすべきか?(3)


< Part 2 から続く >


同様の理由で、親会社がフランスの場合は、海外各国の現地法人で使う標準言語をフランス語にすべきか、といえば、そうとは限らない。英語が最適解である、となるケースも多いはずだ。


筆者の見方は、要約すると次のようだ。


(ファクター1) 英語だろうが日本語だろうが、社員が社内で使いこなす言語が統一できれば、社内コミュニケーションの効率は上がる。(実際に、20世紀に繁栄を謳歌した国産グローバル企業では、海外で現地採用した社員に日本語の勉強を奨励していた例が多い。)

(ファクター2) それに加え、もしそれが英語で統一できたら、かつもし社員の英語力が充分であれば、「Information Out」つまり対外的に情報を発信するPR活動(営業、マーケティング、IRCSRなどを含む)の効率と効果が日本語で統一した場合よりもはるかに高まる。さらに、「Information In」情報収集の効率や効果も高まる。

(ファクター3) 社内言語は統一しないほうが、さまざまな文化圏で、さまざまな才能を持った人材を起用できる。今日よく言われる多様性の点からも望ましい。

(ファクター4) 社内言語は統一しないほうが、さまざまな言語の地域から、それぞれの言語での情報が収集でき、それぞれの言語での例えば研究開発能力が活用できる。


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< Part 4 に続く >

posted by Nobby at 01:24 | Comment(0) | TrackBack(0) | 経営

◆社内公用語は英語にすべきか?(2)

< Part 1 から続く >

じっくり考えると、答えは
Yes or No
のどちらかにはならないかも、ということに思い至る人が多いだろう。

私見を述べると、どっちかに統一してしまわないことが、両方のメリットを最大化してデメリットを最小化する解であるように思える。


要は、当面の間、役員会や幹部会は、基本的に日本語を中心に行い、たまには英語でやればよい。一回の会議のなかで、日本語で進行させる議題と、英語でのそれが混在しても良いと思う。

英語で行う頻度や割合は、会議の性質や目的や構成メンバーや部門によって違って構わない。今後ソニーや
NTTドコモやトヨタのようにニューヨーク上場も果たして資金調達をするなら、財務部門やIR部門は英語の議題が増えるべきだろうし、そうでないならさほどでなくても良い。データセンターを海外に置いて効率化やコストダウンを計ると決めたら、それを推進するメンバーたちの議論には、当然英語が導入されていくだろう。そうでないならさほどでなくても良い。


つまるところ、日本語、英語、どちらかだけに限定しない方が良いと思う。必要なら発言内容が二カ国語ちゃんぽんでも、それがそのときの議事進行にとって最適であるケースもありうると思う。参加者にとっての情報交換や意見調整がより正しく効率的・効果的に行われればそれで良く、さらにはそのスタイルでの運用によって、日本人社員に英語に慣れてもらうための練習期間としても機能することも期待できる。ちなみにこれは、海外進出した日本企業の現地事務所では普通に行われている。なお注意点として、日本語のできない出席者がいる場合は、日本語を使わないことをルールとする、すなわち英語で行うのが、マナーであり、現実解であり、かつ最適解であると思う。

さらに言うと、ここで議論すべきは、「日本語か英語か」だけではなく、企業によっては英語以外の外国語を検討する必要もある。当たり前のところとして、ロクシタンの日本法人ではフランス語が、必須とまでは言わなくても、とても重宝するだろうし、浄水プラントメーカーが今後最重要の成長市場として中国を狙いたいなら、中国営業部の会議をたまには中国語にするのも良いことのはずだ。


要は、「日本の会社なんだから、方針も言語も日本式で」という考え方が、グローバス時代に取り残される方程式だということになる。


< Part 3 に続く >

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2010年11月01日

◆社内公用語は英語にすべきか?(1)


楽天が、取締役会を日本語でなく英語で行う、という決定が話題になった。

楽天の社内でそれがどう受け止められているかは知らないが、想像するに、少なからぬ戸惑いがあるが、「三木谷決定」なのだから、真っ向から反対するのは難しい空気があると推察される。一方、巷では、賛否両論があるようだ。

賛成派の主張としては、概ねこの決定の理由と共通するものだろう。海外企業の買収を行ったことでもあり、国内市場からの売上げに頼っていることはできない。そんな国内も、海外勢の競争にさらされるようになってきている。開発においても、海外の優れたエンジニアを活用する方が有利である。企業の意思決定に必要な情報も、英語でのアンテナを張った方が質、量、スピード、多様性、どの尺度をとっても日本語を凌駕する。

一方、反対派の主張は、効率が悪い、役員や社員への負担、不自然な根回しの発生、
PRIRのやりにくさ、といったところか。

メリット、デメリット、両方ある、このような状況では、どうしたら良いか?

読み進める前に、

「そもそも、社内の言語は、何かひとつに統一した方が良いのか?」
という問題について考えてみてほしい。


< Part 2 に続く >

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2010年09月11日

◆ディズニーランドにみる、経営のお手本

今日はこのサイト上で、最近寄せられた一つのコメントに回答してみたい。

そのコメントは、このようなものだった。

----------------

「互恵実践」の分かりやすい具体例を見つけました。「オリエンタルランド」さんかもしれません。

先日、「ディズニーリゾート」へ生まれて初めて家族へ行きました。周囲からの前評判のみならず、電話での対応などから、「ああ、確かにこれは少し他と違う」と思わせるものがありました。

決定的だったのは、トラブル処理です。暑さもあり、子供が途中で体調を崩したのです。 笑顔で付き添い対応をしていただいたスタッフさん(あちらでは「キャスト」というそうです)の笑顔と言葉でした。「来ていただける人達の笑顔と喜びが私達の喜びなんです」 嘘のない素直な想いは人の心を動かすものだと改めて認識出来ました。

目的を理解し、そのために一人一人がプロとして何が出来るのかを考え、実行する。目的が同じ人と足並みをそろえる喜びを分かちあう。

2日間の滞在でしたが、その偏差値の高さは驚きと称賛に値するものだと心から思いました。

年間来場者数約2600万人。平均単価13800円。データには少し誤差があるかも知れませんが名実共のNO1エンターテイメント企業。 東証1部サービス業カテゴリで堂々4位。 実績というものは後から付いてくるものなのでしょうね。

本当、勉強になりました。

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全くその通りで、東京ディズニーランドを運営するオリエンタルランド社は、平均的な日本の会社よりも優れた企業文化を持っている。

東京ディズニーランド(TDL)は、ウォルト・ディズニー社が会社史上初めて海外に自分のテーマパークを進出させたプロジェクトだ。これの成功により、その後世界のあちこちにディズニーランドが誕生するが、米ディズニー社はTDLに1%も出資していない。またオリエンタルランドにも出資していない。これは、香港ディズニーランドやパリ・ディズニーランドには半分近く出資しているのと比べると、ディズニー社としてはユニークな戦略といえる。

それでも、オリエンタルランドは、TDLに本家ディズニーの優れた企業文化を植え付け、育てることに成功している。米国ディズニー社の精神をしっかり受け継いでいる。


オリエンタルランドのアニュアルレポートから・・。

The Art of Happiness -- 誰も想像しえなかった「夢、感動、喜び、やすらぎ」を提供することで、ゲストにハピネスを届けたい。それが創立から50年、今までも、そしてこれからも変わらない私たちの想いです。

50年後も、100年後もハピネスを届け続けるために、昨日より良い今日をつくります。

心をひとつにした2万8千人のチームワークで。
 

オリエンタルランドのアニュアルレポートから。


一方、米国ウォルト・ディズニー社の6つの価値観を紹介しよう。

 ・ イノベーション (新しいことにチャレンジ)
 ・ クオリティ (全ての商品・サービスに高品質を)
 ・ コミュニティ (みんなのための、楽しめるエンターテイメントを)
 ・ ストーリー (わくわくする物語を生み出していく)
 ・ ポジティブな姿勢 (エンターテイメントを通じて、人々に希望と喜びを)
 ・ 品格 (互いの信頼、楽しむ姿勢)



米フォーチュン誌は、ディズニー社を「世界で最も優れたエンターテイメント企業」に認定した。

どちらの会社も、世の中を明るくすることに関して、真剣に取り組み、成功している企業だといえる。

これからも、がんばってほしい。


TDLを訪れたら、また海外のDLを訪れる機会があったら、ぜひ、従業員と、周りの人たちの表情を観察してみてほしい。

たくさんのハピネス、たくさんの笑顔を、発見するはずだ。


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posted by Nobby at 02:50 | Comment(4) | TrackBack(0) | 経営

2010年08月22日

◆ 円高が、僕たちに教えるもの

過去2、30年ほどの円・ドルレートの折れ線グラフをみると、当時(1980年代半ば)の世界的なドル高に対して先進諸国が対応を合議・合意した「プラザ合意」以降、結局のところ、数年に一度のペースで、80円台から130円台の幅のなかで、レートが波打っているように見える。

そういった波動が存在しているとすると、ご存じのように80円台の現在は、その波動の高いところにいることになる。

円高は、日本経済を苦しめる、というのが通説だ。

それでなくても経済状況、雇用状況がよろしくない今日、円高が続くと、日本企業とくに製造業の国際競争力が弱められ、いいことない、というわけだ。

私たちは、企業の雇用削減などでその影響を感じる。

これをどう受け止めるか。

提案なのだが、円高を、何者かからの、僕たちへのメッセージと受け止めてみよう。



その昔、どんな企業に就職したら、私たちの親は一番安心したか。
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銀行、保険会社、大手製造メーカー、総合商社、などか。

この円高では、自動車を国内で作って輸出してもなかなか成り立たない。なので国内工場は減産ないしは閉鎖、代わって市場の近くに工場を移す。従って国内での製造工場の雇用な減る。

同様に、日本語しかできない日本人の給与が、英語と日本語を勉強した中国人よりも高いなら、ホワイトカラー労働力としての日本人の国際競争力は極端に不利となる。円高でこの傾向はさらに顕著になる。

逆にアジアで製造して日本で販売をするユニクロのようなビジネスモデルは、円高はその競争力を増す追い風となる。

このようにして円高という現象は、様々な業種やビジネスモデルの明暗を分けている。我々はその現実をよく観察しよう。

そして、そこから聞こえてくるメッセージに耳を傾けてみよう。

勉強も、就職も、自分を磨く努力も、日本国内で終わってはいけない、というメッセージが聞こえてくるはずだ。

posted by Nobby at 21:18 | Comment(1) | TrackBack(0) | 経営

2010年07月29日

◆ 働きたい会社、働きたくない会社

働きたいと思える会社って、たまにある。

もちろん、そう思えない会社も、ある。

(こっちのほうが、たくさんある。)

違いは、どこからくるんだろうか?

いろいろな会社が、社員に対してアンケート調査を行うことがある。
社員の満足度をちゃんと考えよう、というのが、最近の流れだ。

顧客満足(CS)に対して、ES(Employee Satisfaction)と呼ばれることも多い。

そのようなアンケート調査から、社員が会社に何を求めているか、どこに不満をもつか、がわかる。

それらをふまえて、働きたい会社を形容してみると、

・明確な方向性がある。
・そして社員が、それを理解し、それに向かって動いている。
・さらに、その成果が企業のパフォーマンス(成長、利益、企業評価など)に反映されている。
・さらに、そうしてかち得たもの(利益など)が、各ステークホルダー(*1)に、フェアーに還元される。

(企業のステークホルダーについては、本ブログ2010年2月「会社は誰のものか?」を参照。)

というふうに、一連のストーリーとなるものだ。

Tokyo Cityscape

では逆に、働きたいと思えない会社って、どんな会社だろう?

・会社の方針が見えない。
・貢献度の高い人が相応に処遇されない。(心当たりあるでしょ、そういう会社!)
・ダメ上司のいる会社(*2)(ダメ上司については下に後述)
・業績が安定しないので、会社の経営基盤が安定しない。
・リストラがあった、あるいはありそうな雰囲気。
・経営トップが長〜い間、変わっていない(必ずしも断定できないが、経営陣の硬直化の兆し)。

(*2) ダメ上司について考えてみる。

・指示や方針を明確に示してくれない
・必要なときにタイムリーな決断をしない
・指導やアドバイスをしてくれない
・部下の手柄を奪う、自分の失敗を部下になすりつける

とくに最後の点は致命的で、そういう上司を持った社員は不幸だ。

この場合の上司と部下の関係は、こんなかんじ・・・。

<< 部下と上司の関係 >>

- 部下の手柄は上司のもの
- 部下のミスは部下のせい
- 上司の手柄は上司のもの
- 上司のミスは部下のミス

こうやって簡潔に書いてみると、ジョークのように見えるが、実際にこういう会社は、少なからずある。

従業員数万人クラスの大企業で、この体質があることで有名な会社も、ある。

ダメ上司にしても、ダメ会社にしても、最終的には全て、それを放置している経営者の責任だ。
posted by Nobby at 17:57 | Comment(8) | TrackBack(0) | 経営

2010年05月06日

◆ つぶれては困る?(Part 2)

DSCN1748psd.jpg<5月5日の記事からの続き>

大企業が倒産して、割を食うのは、どう転んでも国民全体だ、という話をした。

ただ、そこで忘れられているファクターとして、社会全体の損失の前に、その会社の、債権者と、株主たちが直接的に大損をこうむるという点がある。 

(経営者も失墜するのでダメージとなるが、これは救済のケースでも経営陣は通常全交代となるのでほとんど一緒だ。それに、このような事態になった責任の多くは経営者にあるのだから、路頭に迷ったところで自業自得と言っても良いと思う。それよりも従業員のことを思ってほしい。)

ちなみに、会社が立ちゆかず、払うべきものが全部払えない場合、会社は、払いたいところを勝手に優先させて払うことは許されていない。支払いを優先させる順にルールがある。

支払う順は次のような感じだ。

税金、給料、その他の支払い、担保のある借金、担保のない借金、優先株主、普通株主・・・

そして、この「支払い優先リスト」の逆順に、「取りっぱぐれる」ことになる。

つまり、リーマンのように単純に倒産すると、債権者の「貸したお金を返してもらえる権利」と、株主の「出資によって、会社の一部を所有していることによる資産価値と、その会社が生み出すはずだった利益の分け前をもらえる権利」が、紙切れになるという結果をもたらす。

どうりで、債権者(大企業の場合は、債権者は大抵が銀行だ)と、株主(金融機関だったり、事業会社だったり、創業者一族だったり、ファンドだったり、一般個人株主だったり)は、倒産を嫌い、救済を求めるわけだ。

でも、その事態を招いたのが放漫経営であった場合は、それを放置した株主は、株主責任をとる意味で、国民にツケを回す前に損失を受け止めるべきだと思う。経営者や取締役を選任・新任するのも株主だったのだから。

                                                  *   *   *
ボストンの街

国の経済を左右するような「立派な」大企業が立ちゆかなくなったとき、そこから先どう転んでも、われわれ国民は損害を受ける。

これは逆に、「大企業が繁栄すると、経済が繁栄し、私たちはその恩恵を受ける」ということでもある。

この現象をもたらすことこそが、企業の、とくに大企業の、社会的任務である、ともいえる。

企業の発展の意義や価値は、その企業自身を繁栄させることだけにあるのではない。成長、発展することにより、企業活動(ものを買う、作る、売る、サービスを提供する、価値を生み出す、雇用を生み出す、など)を通じて、社会全体に貢献することになるのだ。

企業は、保身だけに走ってはいけない。

posted by Nobby at 07:31 | Comment(0) | TrackBack(0) | 経営

2010年05月05日

◆ つぶれては困る?(Part 1)

「Too Big to Fail」 (大企業すぎて、見殺しにはできない)
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リーマンブラザーズも、そういった、つぶれては困る大企業の代表だった。

だがアメリカ政府は、リーマンが倒産することを、回避しなかった。

一方で日本は、それよりもずっと小さい企業であるJALを、公的なお金を使って、救済することを選んだ。

救済の場合は、国の財政、これはひいては、国民。

救済せずに、つぶれて、経済がダメージをこうむる場合は、国の経済が痛む。これも、割を食うのは、国民だ。

あれ? ・・・なんだ、結局どっちにしろ国民全体か。

であるなら、たとえば、ある超大企業を国のお金で救済すると1兆円かかる。一方、つぶれたことで国の経済が3兆円相当のダメージを受けるとすると、たとえ国民の血税を1兆円分使ったとしても、救済したほうが国としては(ひいては国民にとっては)トクになる、という判断が成り立つ。

救済すべきか否かの議論のうち、そろばん勘定の部分でいえば、JAL救済の正当化も、この論理があてはまることになる。また、リーマンについて、アメリカ政府は救済すべきだったのでは、という意見があるのは、この種類の論拠だ。

ただ、この論理には、ひとつ忘れられている重要なファクターがある。

それは、そういう大きな会社がつぶれた場合に、社会全体の損失の前に、直接的に大損をこうむる人たちがいるという点だ。

  >> 5月6日の記事に続く

posted by Nobby at 06:56 | Comment(0) | TrackBack(0) | 経営

2010年05月04日

◆ 企業はどのようにつぶれるか?

日常の会話のなかで私たちは、「ウィルコムが倒産した」とか、「英会話のジオスがつぶれた」という表現をするが、新聞の見出しには倒産という言葉はあまり使わず、経営破たんのパターンによって、「準自己破産手続」や、「会社更生法申請」や、「民事再生手続」などの表現が使われる。

多くの場合、経営がうまくいかなくなったとき、その症状は、最初に資金繰りに現れる。

そして、その結果、次のようなことが起きる。

・社員の給料を、決められた日に払うのが難しくなる。
・仕入れ先や業者への支払いが難しくなる。
・借金がある場合、その返済が滞る。

その状態を、経営努力によって脱却することができないとなった場合、会社には前述のような、何通りかの「破たんのパターン」が待ち受けている。

もちろん、その回避の方法として、経営努力以外に、どこかに会社や事業を売却したり、銀行や別の企業から資金的な支援を受けたり、場合によっては買収してもらって倒産を回避する、という場合もある。ところで、経営努力も、回避努力もむなしく、会社がつぶれてしまうことになったとき、いちばん困るのは、誰か?
また、その責任は誰にあり、どのような反省が求められるか?

この続きを次回の記事で、金融ショック以降、メディアを賑わせながら破たんしたリーマンとJALを例にあげて記してみたい。

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posted by Nobby at 23:04 | Comment(0) | TrackBack(0) | 経営

2010年04月23日

◆「任天堂」の社名の意味は?

「任天堂の社名は何を意味するのか教えてほしい。」

昨年の任天堂の株主総会で、実際に株主から出た質問だ。

当然、「任天」の意味を普通に想像すると、「運を天に任せる」を思わせる社名だ。

なので質問した株主は、「経営を運まかせにするとは何ごとか」と言外に問いをこめ、とっさの回答に困る社長を見たかっただけなのかも知れない気がする。

この質問に対し、任天堂の岩田聡社長が答えた内容は、見聞きした記憶に頼って書いているので正確ではないが、おおかた次のようなものだったかと思う。

「人事とは、つくしきれるものではないと思っている。だからこそ、それにベストをつくし、ただしそれで完全だと考えずに謙虚な気持ちを忘れずにいろ、私は任天堂の社名にはそういう意味が込められていると思っている。」

数ページにわたって幹部が用意した「株主総会想定問答集」では、恐らく想定されていなかった質問だったかと思うが、岩田社長は満点以上の答えを出してくれた。

日本人には少ない、卓越した頭脳と機転の持ち主だと思える。

機転や判断力が必要であると同時に、日頃から常にあらゆる経営の課題について思索や自問自答をしている人だからできる芸当だと思う。それを支えているのは、知見と、訓練と、自律と、理念だと思う。

それができていないケースが多いから、日本では、「失言問題」などが頻発するのかもしれない。とっさに適切な発言ができない、あるいはとっさに不適切な発言をしてしまう・・。要職にある人、とくに政治家は、その訓練をしておきたいものだ。

現状では、アメリカの大統領選のように、候補者同士のテレビ対決などを行ったら、失言や問題発言が続出してしまうのではないかと心配する。

これを放置したら、つまり、とっさの判断はできなくても仕方がない、と容認する世の中だったら、困ったものだ。

日本では、「すみません、つい出来心で・・・。」と弁明すれば不適切な言動が酌量されるような、言外の甘えが存在していないだろうか。

たとえば痴漢やセクハラや万引きが、「すみません、出来心で」と頭を下げれば少し許される、といった風潮が日本にあるなら、警察はいらない。

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posted by Nobby at 18:44 | Comment(0) | TrackBack(0) | 経営

2010年04月22日

◆「会社の方向性が見えないので辞めます。」

よくある部下の不満。

「会社の方向性が見えないんです。」

このような不満を唱えられたとき、上司がそれを自分の辞書にある言葉で理解しようとすると、誤解や混乱をまねくことがよくある。

社員が「会社の方向性が見えない」といった表現をするときは、それはしばしば、次のような意味であることが多い。

・会社が自分に何を求めているのかが、わからない。
・上司が自分に何を求めているのかが、わからない。

なので、その疑問に正しく答えてあげる必要がある。

上司(ないし経営者)はしばしば、当たり前と思われることを説明・確認しないことが多い。

たとえば、「会社はキミを皿洗いとして雇ったのだから、求めているのは、早く、きれいに、割らずに食器を洗うことに決まってるだろ。」と考える。

だがそれは、暗黙に理解されているもの、と思ってはいけないのだ。

業務の内容、手順、問題発生時の対応方法と相談方法、期待される成果、評価のポイント、責任や権限の範囲など、全て、わかるまで、明確に伝えないといけない。

しかも、以前伝えたことでも、定期的に繰り返し伝えないといけない。

さらに、それらの期待や評価ポイントに照らして、その人のパフォーマンスが現在どの程度期待に応えているのかについて、フィードバックを、明確に伝えないといけない。

そこまでしても、なかなか埋まらないギャップもある。

もちろん、それさえしなかったら、なおさらギャップは埋まらない。

こんなギャップ、飛び越えるニャ。

「私はこんなにがんばっているのに、会社は認めてくれない」という、よくある悲劇につながってしまう。

「男と女の、永遠にわかり合えないギャップ」と同様に、
「上司と部下の、永遠にわかり合えないギャップ」があり、
「経営者と社員の、永遠にわかり合えないギャップ」がそこにある。

その現実に対峙し、「相手の立場にたって・・・。」と、双方に、言いたい。

それが、今度別項で説明する「利他の心」であり、「エンパシー理論」である。

それは、「エコシステム」にも通じるものだ。

自然界のエコシステムには、、相手のことを思いやる心は介在しないが、筆者の唱える、人間のための、人間の活動のエコシステムは、その心が重要な役割を果たす。

一人一人の顔と、心が、見えないと・・。

posted by Nobby at 23:19 | Comment(0) | TrackBack(0) | 経営

2010年03月30日

◆ エコシステムとは

エコシステムとは?

「エコシステム」の本来の英語「ecosystem」が使われ始めたのは案外古く、例えば1970年のサイエンティフィック・アメリカン誌に「エコシステムの栄養サイクル」(The nutrient cycles of an ecosystem)という記事が掲載されている。

日経のWebサイトでは、次のように説明されている。

『本来は生物学における生態系を意味する単語だが、近年ではビジネスにおける特定の業界全体の収益構造を意味する単語として用いられることが増えてきた。1つの企業の収益構造は一般的に「ビジネスモデル」と呼ばれるが、ある業界にかかわる複数の企業が協調的に活動して業界全体で収益構造を維持し、発展させていこうという考え方によるもの。』

何かしっくりこない。エコシステムは、収益構造ではないのだけれど。。
まあ、こういう意味でエコシステムという言葉を使うことも可能なのかも知れない。狭い意味では。

このほか、IT業界ではよく好んで使われているようだ。その場合は上記説明に近い意味合いで使われることが多いようだ。

ほかに、マーケティングの世界では、「企業コラボ」「クリエイティブな企業パートナーシップ」のような意味で使われ始めたようだ。(例:「コカコーラ・パークが挑戦する エコシステム・マーケティング」ファーストプレス刊)>でもこの場合は、企業間同士(本の中の例では日産とコカコーラ)で成立する関係のことのようなので、私の提唱する、企業におかれた環境の全ての構成員と関わりあうものという定義に比べると、これもやや狭義であるといえる。

森林でも、エコシステムが成立していたりする。


「エコシステム」は、「共生」をもっと広い視野でとらえるもので、ある生物を中心に考えると、関わりを持つ全ての生物、さらに生物でないもの・・・とりまく環境(大気、水、気候、土壌など)も含めて、長期で相互依存が成立している仕組みをさす。

ここでは、エコシステムを次のように整理して定義したい。

エコシステムとは、自然界において、生命体が自己の保身や利益・繁栄のためにとる行動に対して、他種や周囲・環境とともに全体の安定または繁栄が図られている仕組みのこと。二種類の生命体の間ではとくに「共生」(simbiosys)という言葉がある。(クマノミとイソギンチャクの共生などが有名。)この「共生」もエコシステムの一種といえる。一方、「共生」が互いの利益を図っているのに対し、片方だけが相手を利用する場合のことを「寄生」という。

このような意味を持つ「エコシステム」という言葉が、企業の経営のシーンでもあてはまると思うため、私(が最初ではないとは思うが)は自ら使うようになった。単に企業間の協力関係(アライアンスやコラボレーション)のことをエコシステムと呼んだりするのを見かけたことはあるが、これは正しくは上述のように「共生」だと思う。経営の話でエコシステムという場合は、特定の企業同士に限らず、取引先や消費者、株主、コミュニティなど、広く企業をとりまく構成員や環境との共存を図ることを意味するものとして使いたい。

同じように湖沼とそこの生物も、エコシステムだ。

生物学、生態学、環境学などにおける本来のエコシステムは、必ず生物(動植物、微生物)と、環境(気候、大気、水、土壌など)という非生物の相互関係の上に成り立つものと捉えるので、エコシステムという言葉をビジネスなど他の分野で応用する場合にも、このコンセプトに従うのが正しいだろう。
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たとえば経営学のうえでは、企業や消費者が本来(環境学)でいうところの各種生物になぞらえられるなら、同様にそのエコシステムの構成要素として、地域社会(コミュニティ)や経済制度などを本来でいう非生物の環境要素にあたると考えることで、エコシステムという概念が、その本来持つ「互恵・共存のしくみ」として様々な分野で成立していることがわかる。

企業の経営の場で、このことを意識することで、それまでは見えなかった、解が、見えてくる。・・・自社の利益だけを、あるいは上司だけを、部下だけを、株主だけを、顧客だけを、あるいは株価だけを、見ていたときには、見えなかった解が・・・。
posted by Nobby at 22:21 | Comment(7) | TrackBack(0) | 経営