2011年08月25日

◆ボーイング787とエコシステム経営(5)

<Part 4 からの続き>


これだけのレベルで新素材の採用が進んだのは、ボーイング社の設計やシミュレーション能力はむろんのことだが、それに協力する世界の製造メーカーの協力があってこそだった。

なかでもとくにめざましかったのは、日本の先端素材メーカーの活躍だった。これなくして787の成功はありえなかったといって良い。


9.jpg
(ボーイング787  メーカー関連図)  *クリックして拡大


ここに書かれているメーカー関連図は、数百万点といわれる部品総数のごく一部だ。実際に787向けに部品を供給するメーカーの数は、382社にのぼる。

これだけの数の部品供給会社があると、契約も、設計も、品質管理も、納期管理も、全て大変な作業だ。これらがみな、ボーイング社へのチャレンジとなって肩にかかってくる。787の納期が遅れた原因の一部は、そのサプライチェーンの上流にもあった。 多くは共通部品を複数サプライヤーから仕入れるマルチプルソーシングを行っているが、そうもいかない部品も多くある。

もちろん、マルチサプライヤー、グローバル調達は、ボーイング社にとっても、そのメリットがあ手間やリスクを上回った。

55.jpg


なかでも、新素材に関する日本メーカーのレベルには一日の長がある。とくに人命を預かる航空機の機体への採用は、国産メーカーの真骨頂を発揮した快挙といえる。

実はボーイングと日本メーカーとの協業は、787に始まったことではなく、実に40年近く前にさかのぼる。1970年代始めに、ボーイング社とのCFRP(炭素繊維強化樹脂。東レのブランド名「トレカ」)の採用検討は始まっており、70年代のうちに実装も始まった。ただし当時は主要な構造部分への採用はなく、機内装備や内装の一部から採用が始まった。80年代に入って、機体の強度や安全性に影響する重要な部分にも採用が進み、90年代になるとボーイング777を中心に主翼や尾翼など、飛行機全体の構造設計に関与する形での採用が進んだ。

このような歴史と経験を経て、ようやく今回の787で、「全体の半分以上が新素材」と言えるレベルでの採用になった。

52.jpg

全体の半分を新素材で、というレベルの採用度は、航空機製造史上最高で、これを従来素材との置き換えによる重量削減量として計算すると、約25トン前後の軽量化、ということになると思う。しかもそれによって強度は全く犠牲になっておらず、むしろ強度アップが実現し、より安全な飛行機が完成した。

16.jpg


ちなみに、東レが自社の新素材事業に関して、航空機業界に対する意気込みは生半可ではない。

東レは2004年に、B787の主翼と尾翼を対象として、炭素繊維ユニディレクショナル・プリプレグ(単一方向に配置した炭素繊維の間を樹脂で埋めた中間材料)の長期供給基本契約をボーイング社と締結した。その後さらに、胴体向けに炭素繊維クロス(織物)プリプレグの追加受注に成功している。

2010年の東レの航空機向け炭素繊維の年間生産量は約2万4000トン(ちなみに2006年には1万トン強だった)にまで伸びている。 ボーイング社との契約期間である2021年までの16年間における、同社への炭素繊維材料の供給額は、約60数億ドルを見込む。16年間で1500機前後のB787に炭素繊維材料を供給する計画だ。

56.jpg
東レがここまで努力して投資を続けてきた航空機向け複合素材事業。ボーイング社から60億円を得るだけで満足すべきでは無論ない。 たとえば、当然ながらこの動きを誰よりも意識しているのが、ボーイングの最大のライバル、エアバス社だ。東レはエアバス社の旅客機向けにも新素材を供給していく。 さらにその先には、ボンバルディア(カナダ)、エンブラエル(ブラジル)などの中小型旅客機メーカーへの営業攻勢も視野に入っていると想像する。 そして航空機向けからのヨコ展開として、大きな市場性が見込まれる自動車向けのニーズが射程距離に入っている。


炭素繊維やそのプリプレグに関しては、そのなかでは相対的にハードルの低い用途となる、普及帯ゴルフクラブ、テニスラケット、釣り竿、自転車などが徐々に韓国系炭素繊維メーカーからの価格競争にさらされているなか、本体メーカーの要求基準が高い、航空機向け、自動車向けは、当面は日本メーカーが優勢、と見てとれる。


この、先端技術による新しいモノ作りでいつもワクワクさせてくれる飽きない会社、「東レ」 については、機会を改めて執筆したい。

<Part 6 に続く>

54.jpg





 

posted by Nobby at 16:56 | Comment(0) | TrackBack(0) | 経営
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/47547336
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック