SBI大学院 公開授業 『第二回 ビジネスプラン道場』
今月20日(土)に、SBI大学院大学(六本木一丁目)でベンチャービジネス養成講座の公開授業を行った。
4つの新規ベンチャーにプレゼンをしてもらい、聴講者とともに私がその事業計画に突っ込みを入れるというもの。ちなみにそのうち2社は、IPO(株式公開)まで考えているとのこと。
60名超の聴講者の参加があり、満員御礼。(立ち見の人、すみませんでした。)
聴講者の中には、ベンチャーキャピタルなどの機関投資家や監査法人、事業会社などのかたもおられたので、発表する人たちも、当初想定していた以上に緊張したのではなかったかと思う。
事業プランを発表した4チームは以下。守秘義務の関係で詳細な内容は割愛するが、各チームともしっかり準備したプランになっていた。
1.企業のソーシャルネットワーク活用、スマートフォンのクラウド活用に特化したブティック型コンサル会社:「EverConnect」
2.スマートフォンアプリへの広告配信を、ユーザー、広告主、アプリメーカーそれぞれのニーズを反映して最適化するプラットフォーム:「Approid」
3.場所や体験を共有するための新型SNS 「Premiru」 - FaceBookは人のネットワーク。Premiruは場所のネットワーク。
4.ソフトウェアの品質を的確に、確実に改善するために、できあがったコードのテストではなく、開発段階から参画する新種のデバッグサービス(ツルマウソフト)
参加者からは、「ビジネスモデル」、「市場の成長性」、「スケーラビリティ」 などの観点からの鋭い突っ込みが寄せられ、プレゼンターはしっかり答えていた。発表者にとっても良い経験になればと思う。
事業の業種が、ITばかり、しかもソーシャル、スマホ関連などが目白押しだったのは、全くの偶然。 また、4社のうち2社は、IPO(株式公開)までを考えているとのこと。 これも意図した構図ではなかったが、意気込みに拍手。
2011年08月26日
◆SBI大学院 公開授業 『ビジネスプラン道場』
2011年08月25日
◆ボーイング787とエコシステム経営(5)
<Part 4 からの続き>
これだけのレベルで新素材の採用が進んだのは、ボーイング社の設計やシミュレーション能力はむろんのことだが、それに協力する世界の製造メーカーの協力があってこそだった。
なかでもとくにめざましかったのは、日本の先端素材メーカーの活躍だった。これなくして787の成功はありえなかったといって良い。
(ボーイング787 メーカー関連図) *クリックして拡大
ここに書かれているメーカー関連図は、数百万点といわれる部品総数のごく一部だ。実際に787向けに部品を供給するメーカーの数は、382社にのぼる。
これだけの数の部品供給会社があると、契約も、設計も、品質管理も、納期管理も、全て大変な作業だ。これらがみな、ボーイング社へのチャレンジとなって肩にかかってくる。787の納期が遅れた原因の一部は、そのサプライチェーンの上流にもあった。 多くは共通部品を複数サプライヤーから仕入れるマルチプルソーシングを行っているが、そうもいかない部品も多くある。
もちろん、マルチサプライヤー、グローバル調達は、ボーイング社にとっても、そのメリットがあ手間やリスクを上回った。
なかでも、新素材に関する日本メーカーのレベルには一日の長がある。とくに人命を預かる航空機の機体への採用は、国産メーカーの真骨頂を発揮した快挙といえる。
実はボーイングと日本メーカーとの協業は、787に始まったことではなく、実に40年近く前にさかのぼる。1970年代始めに、ボーイング社とのCFRP(炭素繊維強化樹脂。東レのブランド名「トレカ」)の採用検討は始まっており、70年代のうちに実装も始まった。ただし当時は主要な構造部分への採用はなく、機内装備や内装の一部から採用が始まった。80年代に入って、機体の強度や安全性に影響する重要な部分にも採用が進み、90年代になるとボーイング777を中心に主翼や尾翼など、飛行機全体の構造設計に関与する形での採用が進んだ。
このような歴史と経験を経て、ようやく今回の787で、「全体の半分以上が新素材」と言えるレベルでの採用になった。
全体の半分を新素材で、というレベルの採用度は、航空機製造史上最高で、これを従来素材との置き換えによる重量削減量として計算すると、約25トン前後の軽量化、ということになると思う。しかもそれによって強度は全く犠牲になっておらず、むしろ強度アップが実現し、より安全な飛行機が完成した。
ちなみに、東レが自社の新素材事業に関して、航空機業界に対する意気込みは生半可ではない。
東レは2004年に、B787の主翼と尾翼を対象として、炭素繊維ユニディレクショナル・プリプレグ(単一方向に配置した炭素繊維の間を樹脂で埋めた中間材料)の長期供給基本契約をボーイング社と締結した。その後さらに、胴体向けに炭素繊維クロス(織物)プリプレグの追加受注に成功している。
2010年の東レの航空機向け炭素繊維の年間生産量は約2万4000トン(ちなみに2006年には1万トン強だった)にまで伸びている。 ボーイング社との契約期間である2021年までの16年間における、同社への炭素繊維材料の供給額は、約60数億ドルを見込む。16年間で1500機前後のB787に炭素繊維材料を供給する計画だ。
東レがここまで努力して投資を続けてきた航空機向け複合素材事業。ボーイング社から60億円を得るだけで満足すべきでは無論ない。 たとえば、当然ながらこの動きを誰よりも意識しているのが、ボーイングの最大のライバル、エアバス社だ。東レはエアバス社の旅客機向けにも新素材を供給していく。 さらにその先には、ボンバルディア(カナダ)、エンブラエル(ブラジル)などの中小型旅客機メーカーへの営業攻勢も視野に入っていると想像する。 そして航空機向けからのヨコ展開として、大きな市場性が見込まれる自動車向けのニーズが射程距離に入っている。
炭素繊維やそのプリプレグに関しては、そのなかでは相対的にハードルの低い用途となる、普及帯ゴルフクラブ、テニスラケット、釣り竿、自転車などが徐々に韓国系炭素繊維メーカーからの価格競争にさらされているなか、本体メーカーの要求基準が高い、航空機向け、自動車向けは、当面は日本メーカーが優勢、と見てとれる。
この、先端技術による新しいモノ作りでいつもワクワクさせてくれる飽きない会社、「東レ」 については、機会を改めて執筆したい。
<Part 6 に続く>

◆ボーイング787とエコシステム経営(4)
<Part 3 からの続き>
6.安全性
ボーイング787の注目ポイントとして見逃せないのが、その安全設計だ。
航空機の安全性は、設計、シミュレーション、実地試験、投入後のフィードバック、などによって左右される。
それを実施するのは、主に開発メーカーであるボーイング社の仕事だ。
その膨大な試験プロセスの、ごく一部を紹介する。
たとえば、エンジンの中にある回転翼(タービンブレード)が、理由はともかく破損したらどうなるか。 たとえそのような重大な事態でも、エンジン故障、あるいは停止、あるいは炎上、などなどの自体を招いてはならない。
たとえば、飛行中のエンジンに鳥が飛び込んだらどうなるか。
これによって不慮の事故が起きたとき、「申し訳ない、想定外でした。」という言い逃れはできない。
なので、その事態を想定した実験を行い、鳥が飛び込んでも故障しないエンジン設計とする。
次に、エンジンに、集中豪雨レベルを上回る大量の水、ひょう、砂・・・などを投入する実験。 これらもすべて、通常の運航において想定しうる量以上のレベルでテストする。
(動画の英語音声注)
・"Four and a half tons of water per minute" (毎分4.5トンの水を投入)
・"3/4tons of hail in 30 seconds" (30秒間に3/4トンの氷[ひょう]を投入)
・"Bird carcasses" (鳥の死骸)
航空機の安全の確保は、大きく分けて以下の4つのエリアがテーマとなる。
1.機体の設計段階
2.製造段階の品質確保
3.航空会社による、運航(オペレーション)上の安全確保
4.航空会社による、整備(メンテナンス)上の安全確保
1.の、設計段階での安全確保については、上記に説明した。
ここで、ボーイング787の部品・部材についてのストーリーを紹介したい。
約10年ぶりの新型旅客機となる787では、新素材の採用を徹底的に推し進めた結果、主翼も尾翼も、胴体も、新素材になった。
787の機体でどの程度 新素材が採用されたかを見てみよう。
下の図で、グレー、水色、紺色の部分は全てそういった複合材料が使われている。
絵で見ると、飛行機の外側を構成する部分、つまり構造部材に積極的に採用されていることがわかる。
では、素材別の構成比率をみてみよう。
グラフにしてみると、前出の機体の絵で見る採用状況ほどには新素材が圧倒的な印象を与えないのは、この円グラフが「重量比率」であることによる。 つまり、合金の半分の重さの新素材が、「全体の半分以上」で使われたということは、それ以上、すなわち半分をはるかに超えるレベルで採用が進んだことにほかならない。 開発に関わった技術者らが、仲間うちで787のことを「黒い飛行機」と形容することがあるのはそういうことだ。
これだけのレベルで新素材の採用が進んだのは、ボーイング社の設計やシミュレーション能力はむろんのことだが、それに協力する世界の製造メーカーの協力があってこそだった。
<Part 5に続く>
2011年08月06日
◆ボーイング787とエコシステム経営(3)
<Part2 からの続き>
5.操縦性
さすがに最新鋭の航空機だけあって、可能な限りの電子化が追求され、そのメリットを感じるのは、乗客だけでなく、キャビンアテンダントも、パイロットも、それぞれ違った意味で感じることになる。たとえば操縦のしやすさ、もその一つだ。

例として、パイロットの操作を、機体のいろいろな部分に正確に伝える部分では、従来、油圧や空気圧で制御されていたものの多くが、電子制御となった。この技術を「フライ・バイ・ワイヤー」というが、787では、この採用の度合いが従来機に比べて格段と進んだ。
ボーイング社としても13年ぶりの新型旅客機となるこの787。その13年の間にも、ITやエレクトロニクスは見違えるほどの進化をとげていたわけだ。その意味で787は、最新のそういった進化をフルに享受・反映した初めての飛行機といえる。

同時に、この飛行機を購入する顧客であり、実際にそれを運航するANAとしても、航空会社としてのビジネス要求、操縦をするパイロットの要求、整備士の要求、地域社会の要求、そしてもちろん、乗客の要求を把握し、ボーイング社に伝えて交渉する、その作業は、かつてないチャレンジとなった。
いかに電子化が進んでも、飛行機の安全運航を完全にするのはパイロット。世界的にも優秀といわれるANAのパイロットが、787の操縦性について意見を述べる機会もあった。彼らがシアトル(ボーイング本社)に行ってアメリカ式の操縦訓練を教わるが、そこで日米の考え方の違いを目の当たりにすることになる。 どちらが良い、悪いではない。
お客様を、安全に、快適に、オンタイムで目的地にお連れしたい・・。 この一見シンプルな航空会社の願いを追求すべく、航空業界の上流から下流までのすべての企業が、役割分担をしている。

(c) ANA Co. Ltd.
<Part 4に続く>
2011年08月02日
◆ボーイング787とエコシステム経営(2)
4.快適性(乗り心地)
(新しいウインドウで、右側の「View Video」をクリック)

(c) Boeing Co.
たとえば、夜間フライトでの休息時間の照明は月夜のような感じに調整し、到着前の機内サービスの時間が近づくと、本当の夜明けのように徐々に明るさを増しながら、上は紺色、水平線付近は朝焼け色にしていく。

実は、機内が乾燥しているのには訳があったのだそうだ。
それらはすなわち、検査やメンテナンスにかかる時間とコストを大幅に低減する。
従来の飛行機での、通常の高度で飛行中の機内の気圧は、地上でいうと標高2700メートル程度に相当するそうだ。ちなみに富士山五合目の標高が2400m。それにより、高山病とまでは言わないが、低気圧に伴う頭痛やその他の不快感を覚える人も少なくない。
それが787では、標高1800m程度にまで与圧され、ノーマライズされた。これは、上信越高原、志賀高原レベルということになり、高度1万メートル以上で飛行する旅客機のキャビン内気圧としては、かつてない快適さだといえる。
ドップラーレーダーによって、進路に観測される乱気流を回避する、などの技術は以前から実用化されているが、今回787に初めて搭載された技術は、飛行中の細かい揺れを直前に計算し、それを打ち消すようにいくつかの補助翼やフラップを細かく動かす、というものだ。

<Part3 に続く>