エコシステムとは?
「エコシステム」の本来の英語「ecosystem」が使われ始めたのは案外古く、例えば1970年のサイエンティフィック・アメリカン誌に「エコシステムの栄養サイクル」(The nutrient cycles of an ecosystem)という記事が掲載されている。
日経のWebサイトでは、次のように説明されている。
『本来は生物学における生態系を意味する単語だが、近年ではビジネスにおける特定の業界全体の収益構造を意味する単語として用いられることが増えてきた。1つの企業の収益構造は一般的に「ビジネスモデル」と呼ばれるが、ある業界にかかわる複数の企業が協調的に活動して業界全体で収益構造を維持し、発展させていこうという考え方によるもの。』
何かしっくりこない。エコシステムは、収益構造ではないのだけれど。。
まあ、こういう意味でエコシステムという言葉を使うことも可能なのかも知れない。狭い意味では。
このほか、IT業界ではよく好んで使われているようだ。その場合は上記説明に近い意味合いで使われることが多いようだ。
ほかに、マーケティングの世界では、「企業コラボ」「クリエイティブな企業パートナーシップ」のような意味で使われ始めたようだ。(例:「コカコーラ・パークが挑戦する エコシステム・マーケティング」ファーストプレス刊)>でもこの場合は、企業間同士(本の中の例では日産とコカコーラ)で成立する関係のことのようなので、私の提唱する、企業におかれた環境の全ての構成員と関わりあうものという定義に比べると、これもやや狭義であるといえる。
「エコシステム」は、「共生」をもっと広い視野でとらえるもので、ある生物を中心に考えると、関わりを持つ全ての生物、さらに生物でないもの・・・とりまく環境(大気、水、気候、土壌など)も含めて、長期で相互依存が成立している仕組みをさす。
エコシステムとは、自然界において、生命体が自己の保身や利益・繁栄のためにとる行動に対して、他種や周囲・環境とともに全体の安定または繁栄が図られている仕組みのこと。二種類の生命体の間ではとくに「共生」(simbiosys)という言葉がある。(クマノミとイソギンチャクの共生などが有名。)この「共生」もエコシステムの一種といえる。一方、「共生」が互いの利益を図っているのに対し、片方だけが相手を利用する場合のことを「寄生」という。
このような意味を持つ「エコシステム」という言葉が、企業の経営のシーンでもあてはまると思うため、私(が最初ではないとは思うが)は自ら使うようになった。単に企業間の協力関係(アライアンスやコラボレーション)のことをエコシステムと呼んだりするのを見かけたことはあるが、これは正しくは上述のように「共生」だと思う。経営の話でエコシステムという場合は、特定の企業同士に限らず、取引先や消費者、株主、コミュニティなど、広く企業をとりまく構成員や環境との共存を図ることを意味するものとして使いたい。

生物学、生態学、環境学などにおける本来のエコシステムは、必ず生物(動植物、微生物)と、環境(気候、大気、水、土壌など)という非生物の相互関係の上に成り立つものと捉えるので、エコシステムという言葉をビジネスなど他の分野で応用する場合にも、このコンセプトに従うのが正しいだろう。

たとえば経営学のうえでは、企業や消費者が本来(環境学)でいうところの各種生物になぞらえられるなら、同様にそのエコシステムの構成要素として、地域社会(コミュニティ)や経済制度などを本来でいう非生物の環境要素にあたると考えることで、エコシステムという概念が、その本来持つ「互恵・共存のしくみ」として様々な分野で成立していることがわかる。
企業の経営の場で、このことを意識することで、それまでは見えなかった、解が、見えてくる。・・・自社の利益だけを、あるいは上司だけを、部下だけを、株主だけを、顧客だけを、あるいは株価だけを、見ていたときには、見えなかった解が・・・。