2010年01月30日

◆ 社長、あなたの質問、間違ってます。

昨日の記事で、「当社の市場シェアはどうなんだ?」という、経営者が抱く疑問自体が間違っている、という話をした。
 
これと全く同じように、「設問自体が正しくない」という現象が、マーケティングの世界でどんどん起きている。

乗用車の市場シェアもそうだ。今や乗用車市場は、ガソリン車、エコカー、新興国向け超低価格車(30万円前後)などをはじめ、嗜好や特性の全く異なる(従って同列にはとらえられない)市場「群」から構成されているからだ。ネジリバナ(ラン科)
 
上で使った「エコカー」という、あるサブ市場をさす言葉にしても、一概に議論できなくなってきた。超低燃費車、ハイブリッド車、家庭での充電を前提とするプラグインハイブリッド車、電気自動車、燃料電池車、代替燃料車、などが同居する市場が、同じ市場といえるだろうか?

ちなみに日本と北米では、エコカー市場ではプリウスのひとり勝ち。なのに南米のブラジルでは、全く別のメーカー(VW)が、全く違う技術を搭載したエコカーで、シェア8割を牛耳っている事実。
 
「市場」または「サブ市場」(セグメントとも言う)をよほど精密に定義し、その定義の妥当性を常に疑い続けないと、とたんに意味がなくなる、「市場シェア」という「因果」な概念。

この議論からわかるように、マーケティングの学習者は、いったん「市場シェア」をキーワードリストから除外したほうがいいのかも知れない、とまで思うのである。
posted by Nobby at 02:37 | Comment(0) | TrackBack(1) | コミュニケーション

2010年01月29日

◆ 「市場シェア」議論の悲劇 (Part2) - 市場がなくなるとき


市場シェアとかを見ているうちに、そんなことはどうでもいい、もっと大きな問題が起きるという、わかりやすい例をもう一つあげよう。


いま、白熱電球(いわゆる、ふつうの電球ですね)の市場で圧倒的優位を確保しているメーカーがあったとして、だからその会社は安泰だ、とは誰も思わないだろう。
 
世の中がこれほどのエコブームになり、あるいはそうでなくても、蛍光灯式電球の価格低下がここまで進み、節約できる電気代で購入コストが回収できてしまうのだから。
 
さらにここに、LED型電球という、また新しい技術と優位性を備えた製品が、日一日と脅威となってきているのだから。
 
こうなってくると、「わが社の白熱電球市場でのシェアはどうか?そしてそのシェアは今後どうなるか?」という調査を社長がマーケティング部に指示したとしたら、そういうピントはずれの設問をした時点で、この会社は終わるだろう。

設問自体が、というか、経営者として「抱いた疑問」自体が、考えるテーマとして正しくないのだ、としか言いようがない。

自社が謳歌している市場が、なくなろうとしているのだ。

20世紀だけを見ても、いかに多くの事業が、消えてなくなったか。
 
そして、そこにいたトップメーカーたちは、転身をはかるか、死ぬか、に運命が分かれた。

レコード針のメーカーは、どうする?

ガソリンエンジンのメーカーは、どうする?
それを支える、ピストンリングの、カムシャフトの、燃料噴射装置の、点火プラグの、触媒の、燃料タンクの、マフラーの、メーカーは、どうする?

地上波アナログチューナーのメーカーは、どうする?



California Pizza Kitchen, Los Angeles
 
 

posted by Nobby at 02:31 | Comment(0) | TrackBack(0) | イノベーション

2010年01月28日

◆ 「市場シェア」議論の悲劇 (Part1) - トップは安泰か?

先日の記事「◆ [この製品が、いちばん売れてます] のワナ」で、ボロ勝ちしているある企業「A社」の話を題材に取り上げた。
 
それは実はいま起こっている現実の話で、タネを明かすと、製品はパソコン用のOSである。
 
つまり、もうお気づきと思うが、シェア93%のA社とはマイクロソフト、第二位のB社はアップル、そして新参のメーカー、C社とは、グーグルのことである。

 
検索とWeb広告の最大手グーグルは、パソコン用OSの開発に着手していることを明らかにした。そのOSが果たしてマイクロソフトのWindowsの安泰を脅かすものとなるかどうか・・・を議論するのが目的ではない。(この議論もしたいのだが、それはまた別の機会に)。
 

ここで議論したかったのは、経営者に求められる、「マーケティング脳」である。
 
一件安泰な事業を根底から脅かすものの兆候は、往々にして、市場シェアのデータからは読み取れないのだ。
 
なぜなら、市場自体が、別の新しい市場との競合にさらされ、淘汰されることがあるからだ。

 

LPレコードが、CDに。
カセットテープやMDが、iPodなどのポータブルデバイスに。
ワープロ機(って死語ですか?)が、パソコンに。

 

で、パソコンのOSに話を戻すと、それは果たして安泰なのか?
 
また、安泰かどうかというより、その市場でのトップシェアを維持することは、果たして本当に重要なのか?
 
大局観を持てないことを「井の中の蛙」というが、それどころか、その井戸の水が枯れつつあったら、井の中で結構、と言ってもいられないことになる。
 
グーグルは、「OS」という「井戸」の中に入って暴れて、そこで大きな顔をしているマイクロソフトをそこから追い出したい・・・わけではないのだ。グーグルは、井戸の中の水や魚など狙ってはいない。
 
はじめに私が読者に投げかけた質問は、OS市場で9割のシェアがあったら、安心ですか? というものだった。
 
決して安心ではない・・・どころか、そもそも、シェア云々と言っている場合ではない、のがおわかり頂けたかと思う。
 
シェアなんて、100%でも安心ではないのだ。というか、シェアデータは、経営者に何の安心も与えてはくれないと思った方が良いのだ。
 

posted by Nobby at 02:20 | Comment(0) | TrackBack(0) | マーケティング

2010年01月23日

◆ その会社名、変えなさい。


前回のブログ(いちばんのドル箱商品 Part I & II) で書いたような、戦略の大転換があって、「富士写真フイルム」は、会社名から「写真」の二文字を取って、「富士フイルム」となった。

 

仮に将来、再度社名変更を行って、社名から「フイルム」の文字が取れたら、(まあこの場合「富士株式会社」では社名にならないので、福武書店がベネッセになったように、全く新しい造語か何かになるだろうが)、そのときあなたは驚き、疑問に思いますか? それとも、過去の栄光に頼らない革新を続けていく意志と覚悟の表われと受け止め、歓迎し、応援しますか? 
 銀座。
その昔、花王石鹸は、花王と社名変更をした・・。(余談だが、もっと昔、顔にも使える良質の石鹸を開発、発売したので、「顔石鹸」と呼んだのが「花王石鹸」社名の始まりだとか。)
 
もっと昔、「日本アスベストス」という、いまから見ると恐ろしい名前の会社が実在した。

その会社は今は「ニチアス」という社名になっている。
その理由はもちろん、変更前から内外で「ニチアス」と略して呼ばれていたことと、アスベストスの持つネガティブイメージを避けてのこととは思うが、社名変更としては、ちょっと安易かも。
 
もうひとつ本当にあった笑えない社名の話。
 

地球温暖化、オゾン層破壊の元凶の一つと言われるフロンガスの一種、フルオロカーボン。
日本ではCFCと略して呼ばれることも多く、ひと昔前は冷蔵庫やエアコンの冷媒として当たり前のように多用されていた。

 
しかしその環境への害が判明し、「オゾン層破壊物質に関するモントリオール協定」で、オゾン層に破壊的な影響を与えるとして、CFCは国際的に全廃を呼びかけられた。
 

そんなニュースが報道されるずーっと前から存在していた工業樹脂メーカー「フルオロカーボン社」(米国)が、企業イメージ上の「濡れ衣」のとばっちりを避けてあわてて社名変更を行ったのはいうまでもない。
 

posted by Nobby at 17:33 | Comment(0) | TrackBack(0) | マーケティング

2010年01月05日

◆ いちばんのドル箱商品が やばくなったら?(Part2)


<Part I からの続き>

さて、前回からの続きで、「富士フイルム株式会社」をとりまくチャレンジと、とりうる戦略について。


選択肢として並べたものをおさらいすると、こんな感じだ。

(1) 仕方がないのでフイルム事業は縮小して、リストラをする。

(2) 縮小する市場からは他社は撤退していくから、最後まで生き残って、しばらくの間稼ぐ。

(3) 医療向け、産業向けフイルムなどの特殊用途に資源を投入する。

(4) 「デジカメ」にとっての「フイルム」ともいえる「受光素子」の事業へ参入。

(5) デジカメになっても、人はプリントした写真は欲しいはず。それに関連するビジネスに資源を投入。

(6) デジカメ本体そのものに参入。

(7) 「写真」にこだわらず、フイルム関連技術を活かせるのなら、全く新しい業界でも参入する。たとえば、食品や、医薬品、化粧品など。

丸の内地下。
読者は、どれを選択しただろうか?


さて、実際にこの会社が、どの戦略をとったかというと、驚くことに、上記(1)〜(7)、すべて、なのだ。
 
長年の写真フイルム関連の研究開発によって培ったノウハウにはすごいものがある。

レンズを通ってきた光 -- といってもそれは、消費者やカメラマンがレンズを向ける、あらゆるものの姿であり、また時には患者の身体を通過してきたX線であるかも知れないし、時にははるか昔に発せられた銀河系外からの電磁波かも知れない -- それらの光を受け止めて反応する化学合成物を「感光剤」として、ロールやシートになった薄いプラスチック(フイルムベース)にそれを塗布して量産、その後「現像」という化学処理によって映像を浮かび上がらせる技術まで、フイルムの会社には、高度な化学反応をコントロールするノウハウに始まり、表面・界面関連技術、粉体・液体関連技術、メカトロ関連、光学関連、ナノテク、などを複合的に応用できるテクノロジーカンパニーなのだ。

これらの技術基盤をもってすれば、たとえば次世代TV用の「高機能材料」、ハイテク医療機器への応用、さらには、写真プリントの色褪せを防ぐ抗酸化技術はアンチエイジング技術となり、写真フィルムの原料であるゼラチンのノウハウはそのままコラーゲンを扱う技術となり、いわゆる機能性化粧品に参入したのは、意外どころかむしろ自然な選択といえる。

「富士写真フイルム」は、社名変更をして、「富士フイルム」となり、上記7つの戦略をすべて実行している。 >>富士フイルムの事業領域・・

 
posted by Nobby at 17:13 | Comment(0) | TrackBack(0) | イノベーション